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海で一番最初に覚えたのは素潜りだ。今でも水中深く行けるだろう。
選手時代からの習慣でランニングや筋トレもしているが、なぜか今は無性に水が恋しくなった。
朝イチに泳ぎに来てみようと砂浜から立ち去ろうとしたときだった。
――バシャッ、バシャンッ。
「ゲホッ。ごぼっ……、ぷあっ」
暗い海の波間から水飛沫が上がった。急にバシャバシャと派手な音をさせて、何か大きなモノが跳ねている。
時々、野生の猪が餌を求めて隣の島から渡ってくる。きっとソイツだろうと水の跳ねあがる海面に懐中電灯を照らした途端、俺は目の前の光景にぎょっとした。
微かなライトに照らし出されたのは、にゅうっと突き出た真っ白な腕。
それは空を掴むように海面を叩いて飛沫をあげている。次に、ザバッと上半身が出てきて、「ぱあっ」と大きく息をすると、そのままドブンと波間に沈んでしまった。
月明かりと懐中電灯に浮かんだのは人の姿だ。
それも髪の長い……、若い女!?
「……ぐぼ。……んぐっ、た、たすけ……」
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