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一際大きな水しぶきをあげて波間に消えた女の姿に、ビーチサンダルを蹴飛ばして走り出していた。
脱いだTシャツを放り投げ、ハーフパンツはそのままに海へと頭から飛び込む。俺は平泳ぎの選手だったが、今はクロールで浮き沈みを繰り返す彼女に向かって、あっという間に近づいた。
うっかり体に触れると、しがみつかれる可能性がある。俺は水飛沫をあげる彼女に大きな声で呼び掛けた。
「おい、落ち着け! 助けに来たから」
怒鳴り声をあげたが聞こえなかったようだ。
女はバタバタと両手足を動かし、水面に顔を出しては「ぷあ、ぷあ」と必死に呼吸をしている。長い髪がぴったりと顔を被い、その表情は見えない。
隙を見て、彼女の両わきに手を回すと後ろから抱え込んだ。
「ふわあっ!?」
間抜けな声をあげ、足をばたつかせる彼女の耳元で、「動くな。すぐに岸だから」と言うと、俺は力強く水を蹴った。
波にも乗って、あっという間に岸に着く。俺は女の両わきを抱えると砂浜の上をずるずると引き摺っていった。
彼女はぐったりと力なく、砂に二本の足で線を残している。
取りあえず、Tシャツが落ちている地点まで彼女を連れて行って、ゆっくりと手を放した。短い髪から額を伝う水滴を拭って、ごほごほと足元で咳き込む彼女に声をかけた。
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