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「 もう大丈夫だ。でも、なんだってこんな時間にこんなところで……」
仰向けに倒れていた彼女は、んく、とひとつ息をつくとゆっくりと上体をあげた。やけに華奢な女だ。それに肌が白いと思っていたが、どうやら彼女はこのむし暑い夜にも関わらず、白い長袖のシャツを着ている。
うつむく彼女が何かをブツブツと呟いている。聞き取れなくて俺は女の近くに腰を下ろすと、長い髪に隠れたその顔を覗き込んだ。
その途端、彼女は髪を思い切り後ろへ掻きあげた。
「痛って!」
海水を含んで重たい髪がビシャリと俺の頬を打つ。少し怯んだ俺に、さらに追い討ちをかける台詞が浴びせられる。
「なにするんだ! 邪魔すんなよっ、おっさんっ!」
女にしては少し低い声。
いや、なによりもまだ三十前の自分がおっさん呼ばわりされたことにショックを受けつつ、目の前で喚く女を呆然と見詰めた。彼女は立ち上がって俺を睨み付けると、
「せっかく人が練習していたのに、余計なことすんな!」
見上げていた俺は半分の月明かりに照らされたその姿をはっきりと確認して驚いた。
女じゃない……。この子は少年?
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