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昔から犬を飼いたかった。
人間すら住むのが窮屈なアパートでは土台無理な話だったし、母親が過労で死んでからは自分の世話さえままならず、暗い方へ暗い方へと進むばかりの人生。
幸せだった頃の名残にたった一冊買って貰った犬の図鑑を、未だに持ってる。今じゃ表紙は手垢まみれで厚紙のページは少し毛羽立っているが、棄てきれない。
中でも一番はジャーマン・シェパードだ。
精悍な顔立ち。引き締まった体。友と認めたものへの忠誠。
堪らなく愛おしい。
休日の昼下がりに日の当たる草原で駆け回ることを何度夢にみたか。
今となっては駆け回れば翌日には腰痛で死にかけるか、あるいは駆け出した瞬間にアキレス腱断裂で転げ回る。
「あの、何かご用でしょうか」
ちなみになんでこんな『俺は、犬大好きなんです』論を繰り広げたかと言えばこいつだ。
やや堀の深い顔。目と眉の近い配置。通った鼻筋。それがハの字眉のせいで絶妙な人懐こさを滲ませる。
理想の、大型犬。
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