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いや、人間だ。間違いようもなく、人間だが。
「あの、」
バカ面なのはこの際目を瞑る。
幻覚でしかないのは判っている。判っているがふさふさの尻尾と伏せられた耳が見える。なんてこった。とうとうヤキが回った。こんなでかいガキが犬に見えるなんてそんな。
「なにか?」
「ぐぁっ」
ぎゅんっ!
って、今心臓変な音立てたぞ?締め付けられたぞ?なんだこれは?なんだこれは?なかなかの体躯をしたガキが窺うようにみてきたその顔だけで心臓高鳴っちゃって奇声あげるって完全に変態だろ。どんだけ犬にベタ惚れなんだ。
「中條 瑛斗さんですね」
まさかの伏兵橋本!いつもはお喋りすら不得意な男が今日は頑張る!素晴らしいね。素晴らしいけどやっぱりお前も「中條瑛斗さんですね」が無理矢理低くした声に潰れている。
これで取り立てに来ましたなんてもはやカトキンだ。ドリフだ。新喜劇だ。
「借りた金返せや」
「はあ、」
キョトンとした顔にまた心臓が高鳴る。
ああ、新喜劇だ。
ダメだこいつら、ほんとに目も当てられない。これじゃナメられるに決まってる。
「ひっ」
半開きの玄関を押し開けて、その高い鼻梁に拳を入れた。
瞬間、悲鳴をあげたのは橋本だった。
だが、これ以上若造が好き勝手やってさらにナメられたらこちらとしても商売上がったりだ。
よろけた隙に体をすりこませる。身に染みた動きだけは心音に左右されることはなかった。
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