ワンコロ

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 なんだこの甘苦しい焦りは!正しいこと言ったのになんで叩くの?みたいな顔をするな!縋るような目で見るな!そわそわする!  「借りたものは返しましょうって小学校で習うな?」  「うん」  うんって本当に小学生かよ。  「でも、今払えないので待ってください」  払えない。  払えないなら、体で払うしかない。他の組の誰かにカメラ回されながら輪姦されるしかない。  こう言うとき自分の発火点の低さを呪うね。  どう考えたって悪いのは荒川某でこの犬っころじゃない。  何でもわかるよ。でも、出来ないことは出来ないよ。  バカみたいに素直すぎて心配とか愛しいとかすっ飛ばして訳のわからない焦りが溢れて拳が止まらなくなる。  「払えませんじゃないんだよ中條くんよぉ」  ばきゃん。  「すいまひぇん」  ばかん。  「どうせバイトもしないで親の脛かじってんでしょぉ」  どごん。  「ごえんらはい」  ごめんなさいってなんだ。事実なのか?事実なのか?だったら早く親に縋って払ってもらえ。たかが金じゃねぇか。親ならてめぇの息子の不名誉より金で解決を選ぶだろ。  「ごえんらはい、はらひぇましぇん」  ばきゃん。  何でそこで払えないになるんだよ、親に縋れよ。払ってくれんだろうがよ。じゃないとお前人前でケツ穴、チンポで抉られんだぞ、おい!  「ごえんらはい、ごえんらはい……」  だからごめんじゃねぇ!  その顔に顔射されて口ん中突っ込まれて男にいいようにされるんだぞ?それでいいのか?だから、その縋るような目をやめろ!きゅーんって鳴くな。いや、俺の幻聴か。いや、幻聴聞こえてるとかヤバいだろ。血塗れぼこぼこの男相手に幻覚見てんのか。  「は、英さん、英さん、ヤバいっす……ヤバいっすよぉ……」  若造の声が聞こえた。すでに半ベソの声だ。  凄い息切れだ。やっぱり寄る年波には勝てない。    「ベソかいてんじゃねぇ!嶋瀬ェ!」  殴打の果てに微か息をしている中條が俺に襟首を掴まれてだらりとしていた。それでも目を開け、こちらを見る様はやっぱり穏やかでバカな犬みたいだった。  「……今日は帰ります」  乱れた襟ぐりを整えてやり、名刺を差し出す。  「目処がたったら、連絡をください」  整いきらない息で言い放ち、踵をかえす。舌打ちが込み上げる。  完全に調子が狂った。
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