取立屋さん

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 「皆さん快く支払ってくださるんですよ」  こういうとき、恫喝一択となのはあまり賢くないし、古い手管だ。今は人間に備わっている心理を巧妙について相手に気持ちよく支払ってもらう。  皆が。多くの方が。○○さんも。  人に同じでありたい、同じでなくてはならないと思う心理を上手く使う。  「いや、でも、その、お金が、」  無くて、  続く言葉を聞く前にソファから立ち上がる。借金なんかこさえてるくせに大層なソファだ。  男の上目遣いを見下ろすとその情けなさについ口角が上がった。  にっこり。  草臥れた男がつられてにやとひきつった笑いを見せた。  「はがっ」  「にやにやしてんじゃねーよ」  後頭部押さえつけて天板に叩き付けると、額で着地した頭が毬みたいに弾んだ。  後ろで嶋瀬がビクンと肩を跳ねらかす。  まずい。  取り立ては柔和に、変に目をつけられないように、お客様にトばれないように。  国家権力から指定を受けると商売がやりにくくなる。  大体、掛けるとこ掛けてからトんでくれ。無駄死には困る。地獄の底まで取り立てに行きたいのは山々だが実際それはむりだ。  取り立て屋という仕事は周囲が思うよりも繊細で神経質な仕事だ。そう思うよ。実際。床に頭すり付けてべそべそ泣いたら金が出るならいくらでも泣いてほしいが、そんなことは絶対ない。  相手の襟首を掴んで引きずり上げる。  「すみませんね、つい気が立っちゃいまして。」  年相応の落ち着きってものを身に付けないといけませんわ。  できるだけ朗らかに笑い、背後の若造を見た。嶋瀬も橋本も、目を合わせやしねぇ。取り立てられてる男と同等かあるいはそれ以上に血の気の失せた顔で俯いている。  そこは君らがうっかり手ぇ出すもんじゃないの?俺が手ぇだしちゃったら誰が止めんの?流れとか段取りとかもう少し空気読もうよ。感じようよ。最近の子の方が得意なんじゃないの、そういうの。  「お返しいただけるまで伺わせていただきます。」  男のスラックスの膝を払い、低姿勢を意識して場を辞す。きちんと計算して振り返り、  「ああ、目途が立たなければご連絡ください。」  さっき男が頭を打ち付けたテーブルに名刺を滑らせる。  「腕のいい医者がいますので」  男は顔面を蒼白にして膝を突く。  折角膝、掃ってやったのに。
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