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目の前の醤油ラーメンにはチャーシューが二枚。
それを一枚ずつ箸で摘み上げる。
「あざっす」
その日本語と認めたくない言語はどうにかならないもんかね。
どんぶりを差し出しながら嶋瀬が破顔するから箸はそのまま嶋瀬のどんぶりにチャーシューを運ぶ。
「お前ら、どうにかなんねえか、そのびびり癖」
恐縮しきった橋本のどんぶりにもチャーシューを乗せてやる。肩を竦めたまま玩具みたいに橋本は首を前後に振った。
鳩みてぇな動きだ。
「ひひっへふあひへふほ」
「!!!」
麺を頬張る嶋瀬は完全にハムスターだ。もっちり頬が膨らんでいて指で突きたくなるほどかわ……いやいやいや。
「餓鬼じゃねぇんだ。その汚きたねぇ食い方どうにかしろ」
嶋瀬の口の端に付いた背油をテーブルにあったティッシュで拭う。
「英さん……」
ぶいぶいと意味不明な音を立てている嶋瀬の横で今度は今にも泣きだしそうなか細い声。
今度はなんだ。
「!!!」
なんだ!
橋本を見やると見事な握り箸でボロボロ大粒の涙溢してる。
「どうした、なんだ、腹でもいてぇか?」
言ってる間に鼻水まで垂らして、手に持ってたティッシュが大活躍だ。
「あ、」
「は?」
「熱くて、くえなくて……」
ひんひん泣くから何かと思えば。
「猫舌かよ」
「それ、俺が英さんにもらった肉!」
嶋瀬はげらげら笑いながら橋本のチャーシューを攫う。
橋本は涙を引っ込めて嶋瀬に応戦する。
馬鹿な子犬が二匹じゃれ合うような光景が、油で汚れた昔ながらの中華料理屋で繰り広げられる。
ラーメンを食いきり、いつも通りの光景の観賞にうつる。
可愛いばかりが能じゃこのセカイじゃやっていけないと思うんだが。
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