取立屋さん

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 寧ろ黒い世界じゃ可愛さなんて無用だ。無用だがお互いの尻尾噛み合うようなやり取りは控えめにみても可愛い。  「まあ、俺が電話終えるまでに食い終わってくれ」  煙草と携帯を手に握って店から出る。  次の取り立てとさっきの報告、確認するためだ。3度のコールで目的の相手に繋がる。  「若」  『ああ、やだ。馨ちゃんに若呼ばわりされると本当に俺がガキみたいな気分になる』  「その馨ちゃんの方がやめてほしいですけどね」  電話の主は自分が雲雀会傘下の若頭であるにも関わらず、相変わらず馴染みの呼び名で俺を呼ぶ。いくらガキからの馴染みでも立場ってもんを弁えなくていけない。  「酒井はダメですね。ありゃ宥め透かすより強行で取り敢えず金目になりそうなもんぜーんぶ売っ払わせてそれからですわ」  先刻の男の部屋を思い浮かべた。ベッド、ソファ、テレビ、その他。金を出してもらえそうなものは意外とある。  『あまり現代的な遣り方じゃないなぁ』  「次は新規の客ですわ、学生さんだからこれも支払えるか」  『じゃあ、そっちはある程度取り立てたら秋聲(しゅうせい)に上納してみるかぁ』  「秋聲に借金男を渡すんですかい?」  確かに若い男なら働かせてもバラしても金になる。しかし、雲雀会会長にそんなものを献上してなんになるか。  『秋聲んとこが男犯す動画売っててな。保証人だし金さえ稼げればこの際それで手打ちでもいいだろ』  面白がって笑う声がする。つまりアンコにして稼ぐわけか。  男を。  「はあ、さいですか」  曖昧な返事しかでない。  ぷっつと電話を切って中華料理屋の入口を開く。  取っ組み合いの残像が見えた気がしたが嶋瀬と橋本は仲良くならんでラーメンを啜ってる。  男が男を犯す。  それを金で観る。  「……ワタシの知らない世界」  呟いて椅子に座ると目の前の子犬二匹がスープまで平らげた丼を俺に向けてきた。
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