雨とチェロさん。

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 揺れる弓が気持ちいい。  どっかから、うるせー、の声が飛んだ。 ハンチングが、すみません、と頭を下げる。 「……うるせーの、あっちじゃん」  あ、と気づいた時にはアタシの声は彼に聞こえてたらしく目が合った。 恥ずかしくなってはにかむと、彼もはにかんだ。  お客はアタシ一人のよう。 「──好きな曲は?」  そう彼が聞くので、うーん、と考える。  雨、雨──。 「──雨に歌えば、とか?」  安易な選曲は良い選曲だったらしく。  バラードアレンジの音が辺りに響く。 チェロの音色はいつしか忙しない人達の足を止めて、雨を忘れさせた。  ハンチングのストリート楽器マン。 チェロの雨は、もうちょっと降っていればいいのに。 そう思いながらアタシはしばし楽しい『雨音』を楽しむのだった。
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