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駅を出たら雨だった。
濡れる地面に舌を打つ多くの人は足を止めている。
雨の中を走って行く人もいれば、大盛況のタクシーの列に並ぶ人もいる。
傘を忘れたアタシも、その中の一人。
コンビニで傘を買うのが最善なのだろうけれど、家にはそんな傘がもう五本もある。
仕方なしの傘はもう欲しくないので、どうしよう。
と、駅の端っこで、静かに音がした。
チェロを弾くストリート楽器マン。
私は彼の前にしゃがんで頬杖をつく。
無精ひげのおじ──お兄さん。深めに被ったハンチングで顏が陰っている。
指が弾くとこを注目。
短い爪があっちこっち、細い指があっちこっち。
雨の音と人の音に混ざって、音楽が静かに響く。
降り始めの雨みたいに、雨の中を縫うみたいに。
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