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彼女が雨を好きだ、という印象がなかったので、僕には彼女の言葉がとても不思議だった。
彼女は今日のような土砂降りではなくても、雨だと外出するのを嫌がったし、洗濯物が乾かないだとか、湿気で髪が広がるだとか、何かと不満を口にすることが多かったからだ。
僕が理由を聞くと、彼女も本から視線を上げた。
「そうだなぁ……雨の音を聞いてるとさ、何だかこう、現実から切り離されたような気分になるから。雨の音で現実が遠くに行って、それで、こうやって本なんか読んでると、その世界に浸かってしまって、夢の中にいるみたい。晴れの日とは何か違うの」
彼女は少し考えて、僕にそう言った。
その感覚は、僕にも少し、わかるような気がした。
「何となくだけど、わかる気がする。でも、ちょっと意外だったな。君は雨が嫌いだと思ってたから」
「ああ、うん。それも間違ってないよ。雨の日に出掛けるのは嫌いだから」
彼女はそう僕の言葉を肯定した。
「こうやって、休みの日に、どこにも行かず家でのんびり過ごす雨の日は好き。……今日は遊びに行けなくて残念だったけど、その代わりあなたとこうやってゆっくり過ごせるし。少しだけ得をしたような気持ち。……こんなこと言ったら、怒る?」
「怒らないよ」
僕は即答した。
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