神様、メガネをとったらイケメンという設定にしてください!

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 数年後。  僕は、非常に困っていた。  大学に通いながらも、相変わらずメガネ男子を続けている。  電車の中も、バスの車内も、メガネをかけている者は一人もいない。  みなが興味津々といった表情で僕を見ている。 「手術、受けないのか」  大学でできた友人からたまに言われるが、僕は頑なにそれを拒否する。 「メガネなんて、不便なだけじゃん」 「メガネは外せないよ、絶対に」  そんな友人たちの言葉を受けながらも、僕はメガネをはずさない。  なぜなら、メガネをはずすと僕は人ではなくなるからだ。 「かっこいい」 「超イケメン」 「まさに天使」  何度、言われたことだろう。  メガネをとった僕は、人であって人ではない。  メガネをかけている僕の顔こそが、人として成り立っている。  そんな僕がどうしてメガネをはずせよう。  はずせるわけがない。  なぜそうなったのか。  原因はわかっている。  あのおじいさんが『メガネをとったらイケメンという設定にしてください』という僕の願いを叶えたからだ。  今思えば、あのおじいさんはメガネをかけた者にしか見えない神様だったんだろう。  たった一杯のミネラルウォーターでどんな願いでも叶えてくれるというのだから、太っ腹だ。  ただ、正直ここまでしてほしくはなかった。  メガネを外した僕の顔は、多くの女性を虜にし、中には気絶させてしまうこともある。  そのまま街中を歩けば、死人が出るだろう。  当然のことながら、そこまで要望した覚えはない。  おじいさんの粋のはからいなのかもしれないけど、これはこれで迷惑だった。  僕はメガネを外せなくなった。  この先も、さらに先も、普通に普通のメガネ男子を演じ続けなければならない。  素顔がさらせない、と言うのは非常に辛い。  いや、そもそもメガネを外した顔が素顔であるかももはや疑問だ。  僕の顔は、メガネとともにある。  そう、僕は“メガネを外せない男子”になってしまった……。
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