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一
ぼろぼろの、朽ち果てかけている荒寺に住んでいる男が居た。
髪はボサボサ。着ているものは体に引っ掛けているだけとしか思えない、薄汚れた布だった。男は唯一、雨漏りのしない本堂で寝起きをしていた。蓆(むしろ)の上に布を敷き、その上に寝転び、何処から手に入れたのか、女物の着物を掛けて眠っていた。
男が何処から来たのか、いつの間にここに住み着いているのか、村の者たちは誰も知らなかった。ただ、気が付けば男はそこに居て、山に入っては川で魚を捕り、山菜を採っていた。その折に村の者と顔を合わせる事があったので、男がそこに居ることを、村人は知ったのだった。
男は、村人の姿を見れば異様に白い歯をむき出しにして、子どものように笑いかけてきた。男の風体に異様さを感じ身構えた村人は、その笑みを見た瞬間に警戒を安堵に変え、反射的に笑みを返していた。
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