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 宗平が目覚めた時には、長親の姿は部屋に無かった。  鼻で深く息を吸い、吐き出した宗平は首を回して宿の者に井戸を使わせてくれと頼み、体を拭う。そのついでに厩を覗き、焔に朝の挨拶をかけて撫でてから、また部屋に戻った。空は、昨日と変わらぬ晴天で旅日和であった。 「孝明、出立は何時にする」  部屋の襖を開ければ、汀が眠い目を擦りながら着替えを終える所だった。狭い部屋を見回しても、孝明の姿は見当たらない。疑問を浮かべた宗平に、隣の部屋の襖が開いて長親が顔を覗かせた。 「出立は、朝餉を終えてからだ。宗平」  目を丸くする宗平に、親しげな顔で近づき肩に手を乗せ顔を寄せる。 「昨夜の女――気に入れば別の部屋に連れて行っても良かったものを」  ばふんと音が聞こえそうなほどに、瞬時に顔に熱を浮かべた宗平に喉の奥で笑う長親の後から、渋面の孝明が現れる。 「ああ、孝明」  安堵と助けを求めるように宗平が呼べば、目を上げた孝明は呆れたような調子で口を開いた。 「武家の三男坊ならば、あのくらいあしらえて当然だろう」 「なっ――仕方が無いだろう。苦手だったんで、ああいう宴席には、なるべく顔を出さなかったんだ」     
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