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「処世術として、必要なことだと教わらなかったのか」 「言われたけどよォ、苦手なモンは仕方ねぇだろう」  その返答を受け止めた孝明が、それをそのまま長親に向けるように顔を動かす。長親が頷くのに、宗平は疑問を浮かべて二人を見比べた。 「宗平……武家ならば名字があるだろう。何と言う」  きゅ、と眉間にしわを寄せて唇を強く結んだ宗平の目が、鋭くなった。 「言いたくないか」 「なんで、気にするんだ。アンタ、孝明の雇い主だって言っていたな。おれの素性を問う前に、自分の素性を言ったらどうだ」 「宗平の姓は、阿久津と言うそうです」  横から孝明が口を開く。ほう、と長親が眉を持ち上げ宗平が怒ったように孝明を見た。 「おれには、教えただろう」 「そう、だけどよ」  歯切れ悪く言いながら長親を見れば、何やら楽しそうな顔をしている。宗平は首の後ろに手を当てて、顎で長親を指した。 「得体が知れねぇだろう」  それに、弾けたように長親が笑った。 「はは――そうか、そうだな。得体が知れないか……そうか。ならば、孝明に名乗った時は、孝明の得体は知れていたのか」 「知れてねぇけどよ…………なんとなく、アンタは胡散臭い感じがしたんだよ」 「孝明は、胡散臭くは無かったのか」     
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