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「あん時は、なんとも思わなかったな」 「――今は、思うのか」  試されているような気分になりはじめた宗平は、長親を憮然と睨み付けてから背を向けた。 「得体が知れねぇし、何者かもはっきりとはわからねぇが、孝明は信用を置くに足る男だから何者でもかまわねぇんだよ――気には、なるけどな」  最後は独り言のように呟いて、宗平は部屋に入り着替えを終えて荷物を集める汀の頭に手を乗せた。心配そうに見上げてくる汀を抱き上げて、問う。 「汀は、なんで孝明についていこうと思ったんだ。村から離れるのは、さみしくなかったのか」  問いに、きょとんとした汀がすぐに破顔した。 「孝明は、仲間だからな」 「仲間――?」 「共に山に入り、遊んだ仲間だ。草笛とか教えてくれたし、村のみんなも孝明を仲間だと思っていたぞ。だから、仲間に村を助けるために出かけるから一緒に来てくれと言われたら、行くだろう」  当然のことのように汀が言い、したり顔で宗平が振り向く。 「汀がそう判じたんだ。初対面のおれが孝明に名乗ったのも、自分の見る目を信じているからだ」 「その見る目からすれば、私は警戒をするべき相手だと認識されたという事か」     
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