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「丈夫な上に染めもきれいだってんで、御武家様の刀の縛り紐や、御公家衆の笏や扇子の持ち手の飾りなんかにも使われる、里の自慢の紐なんでさぁ」
「それは、ひょっとして桃李紐なんじゃないか」
ふと思い当たった言葉をそのまま口にした宗平に、へぇっと感心したように驚いたように又七は目を丸くする。
「舞手の兄さんは、そんなことまで知っていなさるんですか。さては、御武家か御公家に呼ばれて舞ったことが、おありなんですか」
桃李紐がある一定の身分の者たちの間でのみ流通しているという事を、失念してしまっていた宗平は内心でしまったと思ったが、口に出したものを取り消すことは出来ない。
「ああ、まぁ……そうなんだ。おれの舞をいたく気に入って下さった御武家が居てな。さまざまなものを下さった中に、桃李紐もあったから知っていたんだよ」
「そいつぁ、すげぇや。さては兄さん、さぞや名のある舞手なんじゃねぇですかい?」
「いや、名は――それほどに広いわけじゃない」
「またまた。謙遜をしねぇで教えてくださいよ」
弱った宗平は、助けを求めるように孝明を見た。面白そうに――けれど表向きは何の感情も浮かべぬ穏やかな顔でやりとりを聞いていた孝明は、柔和な色を浮かべて又七に教えた。
「まだ、こちらの国には来たばかりなので名を知られていない。言っても、わからないだろう」
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