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「ぼうずは、旅は初めてか」
「ひと月前に、孝明と村を出たんだ」
「へぇ? 村」
こっくりと大きく汀が頷く。
「孝明が、道中でおれに修行をつけながら旅をしているんだ」
「するってぇと、資質があると見込まれたってぇことか。すごいなぁ、ぼうず」
へへ、と得意げに汀が笑い焔の首に抱き着く。旅芸人は旅の途中で見込みのありそうな子どもを見つければ、親にいくらか支払って身を請けて後継とすることは、珍しくない。
「おっかぁと離れて、寂しくねぇか?」
「村を守るためだからな」
ふん、と鼻息荒く胸を逸らしてから、すぐに照れくさそうに焔の鬣(たてがみ)をいじりだした汀の姿に、そうかそうかと又七が頷く。
「おれの息子は、ぼうずより小さいんだが大きくなったら跡を継ぐんだって、張り切ってくれていてなぁ」
とろけそうな顔で息子の話をはじめた又七が、そこから妻の話や里の話と口をついて出てくるままに語るのを聞きながら、空を行く雲のようにのんびりと街道を行く流れに乗って歩き続けた。
そうして日も暮れはじめるころになると、思うよりも歩みをのんびりとしてしまったと気付いた又七が、野営の場所を探さなければと言って来た。
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