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「さっさと進めば、次の宿場までなんとか行けただろうが、このぶんじゃあ日が落ち切る前に野営の場所を見つけてしまったほうがいい。兄さんらは、どうするんだ」 「ああ、おれらに付きあわせて遅くさせてしまったのか。すまねぇな」  言葉の中にあったものに気付いた宗平が謝るのに、ぶるぶると又七は頭を振る。 「そういう意味じゃあねぇよ。この街道は、大勢の荷が通るので有名だからな。賊に目をつけられやすいんだ。早いところ安全そうな場所を決めてしまったほうがいい」  又七の言葉に宗平は孝明を見て、汀を見た。 「焔が、ゆっくりと休める場所がいいな」  焔の首筋を撫でながら汀が言い、頷いた孝明が周囲を見回す。街道を行く人影は、一行をどんどん追い抜き今ではまばらになっていた。その少数の者たちも足を急がせ、彼らを追い抜き進んでいく。 「この先に、河原がある。そこの脇の林で野営をしねぇかい」  他国から来たという孝明の言葉を信じきっている又七が、自分は何度もこの街道を行き来しているからと、誘って来た。それを断る理由もないので、又七と共に街道を逸れて河原に下り、手近な石を組み合わせて火を熾し、手持ちの干し肉と乾燥米で食事をしはじめた。 「しかし、長旅だとその衣装の手入れも大変だろうになぁ」     
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