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武家屋敷に上がったとしてもおかしくないような恰好をしている孝明に目を向けた又七が、白湯を吹きさましながら言い、ずずっと啜った。
「おれの衣装は、いわば客寄せの宣伝のようなものだ。こういう格好をしていれば、芸を行う者だと思われるだろう。呼ばれて舞う時は、宗平もおれも衣を換える」
「なるほどな。そういう格好をして旅をしていりゃあ、見止めた誰かに舞ってくれと頼まれたりもするだろうしなぁ」
「又七は、行商をして長いのか」
「ぼうずの年のころに、親父についてあちこちを回り始めたからなぁ」
なつかしげに汀を通して過去を見る又七の顔に、つられたように裡にあるものに意識を向けかけた宗平の耳が、複数の人の近づく音を拾った。思わず孝明を見れば、彼もまた気付いたようで硬い顔をして頷いてくる。二人の表情が引き締まったことに気付いた又七が、思い浮かんだものに恐怖を浮かべ、汀はきょとんと三人の顔を見まわした。
「じっとしてろ」
小さく言った宗平が、刀を手にして立ち上がる。怯えた顔の又七に笑いかけながら、孝明は宗平に声をかけた。
「お手並みを、拝見させてもらおう」
「用心棒としての、初仕事ってぇワケだな」
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