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 にこりと、何かの見本のように笑った孝明にぽかんとして瞬き、はっと何かに気付いた宗平が高い声を上げた。 「まさか、おれが阿久津家の三男坊だったから用心棒に雇うと言いだしたんじゃないだろうな」  にこにこと笑ったままの孝明は、何も言わない。手の平を額に当てて盛大に息を吐き出した宗平は、やけになったようなぶっきらぼうな態ですたすたと歩き出した。その背に、今度は心底面白げに笑った孝明が歩きだし、焔も進み汀が揺られて着いて行く。迷うそぶりも無く宗平が進んで行ったのは、大通りを二つばかり奥に入ったところにある、簡素に見えるが細やかな部分に趣向を凝らした、大きな屋敷のような店だった。 「これはこれは、宗平様――いつ、御帰りに」  暖簾をくぐった宗平を見た男が、大げさに両手を広げて目を開き歓迎を示す。焔を店中に入れるわけにはいかないので、孝明らは暖簾の外で立ち止まった。 「今さっきだ。息災なようだな」 「はい。皆、変わりはございません。宗平様が旅に出られてからこっち、燈籠の火が消えたように寂しい日々でした。――いや、しかし逞しくなって帰ってこられましたなぁ」     
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