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「こちらの馬を裏へ連れ、よく磨き休ませておくように」 「へぇ」  下男が恭しく焔の手綱を受けとり、ぺこりと宗明に一礼をしてから去っていく。それを少しの間見送ってから、男は条件反射のように滲みついてしまっている商いの笑みを浮かべて言った。 「どうぞ、皆さまも我が家にいるような心地で、おくつろぎください」  通されたのは、庭を隔てた離れの一棟だった。書院造の一間だけだが二十畳ほどの広さがあり、違い棚には香炉が置かれ森林の中に居るような良い香りがしている。床の間には松が描かれた掛け軸がかけられていた。 「湯殿の用意が出来ましたら、お呼びに上がります」 「おお、すまねぇな」  気安げに女に返した宗平が、息を吐きながら大の字に寝転がる。いかにもくつろいだ風であるのに、孝明が納得をしたような感心をしたような声を出した。 「振る舞いから、本当に阿久津家の三男なのかと疑っていたが、なるほど……どのような状態であっても、良家の子息であったということか」 「あ? どういう意味だよ」  むく、と起き上がった宗平が「いや、そうだな」と頭を掻く。     
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