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「言葉づかいもこんなだし、金目のものを持っていなかったしな。疑われるのは、わかるぜ。おれも、旅をしてすぐのころは疑われることにムッとしていたが、途中からは冗談だと言われるつもりで、名乗っていたからな」  汀が庭先に下りて、池の傍に寄り中を覗くのを懐かしそうに眺めながら、宗平は続ける。 「ここは、阿久津家の家老と商家が話をするための、いわば取次所みてぇなモンなんだよ。一定の武家や公家になると、本宅に商人を上げることはめったとねぇ」  ゆっくりと立ち上がり、部屋をぐるりと囲む廊下に立って庭を眺める宗平に、立ち上がった孝明が寄り添うように側に寄り、池の鯉を見つめる汀の小さな背中を眺めた。 「そして、認知はしているが本妻やその子どもらに配慮して、本宅に迎え入れられねぇ息子とその母親を住まわせるのに――忍んで会いに来るのにちょうどいい場所でもある」  ゆっくりと春日のような穏やかで静かな笑みをたたえた宗平が孝明を見ると、孝明が少し自分よりも目線の高い宗明を見上げた。 「おれは、ここで育ったんだよ。――おれの家へ、ようこそってことだな」 「……そうか」 「ここにいるのは、おれの家族みてぇなモンだから、遠慮せずに気楽に過ごしてくれよ。なんなら、住んじまってもかまわねぇぜ」  本気と冗談を交えた宗平の顔は、笑みを浮かべているくせに寂しそうに思えて、孝明はただ微笑みを返すだけにした。 「宗平様。湯の支度が出来ましたよ」     
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