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「ん、おお! すまねぇな」
遠くから女の声が届き、それに応えた宗平が行こうかと孝明を促す。汀にも声をかけて、三人で湯殿へと連れだって行った。
たっぷりの湯で疲れと汚れを落とした三人が部屋に戻ると、甘い菓子と茶が用意をされていた。菓子は花の形をあしらったもので、汀が目を輝かせて眺める。そのわきにある餅を炒ったものを手にした宗平が、汀に見ておけよと目配せをして庭に降り、池の前に立つと手のひらで菓子を砕いて撒いた。
「わぁっ」
激しい水音をさせ、鯉が口を開き暴れて菓子を求める。汀が目を輝かせて、菓子を手にして庭に降りた。
「やってもいいか?」
「おう。やってみろ」
わくわくしながら菓子を砕き撒けば、鯉が跳ねる。はじけたように笑い声を上げた汀が、菓子を砕いては鯉に与える姿を眺める宗平の背後に、音も無く孝明が近づいた。
「宗平」
「うおっ、なんだよ」
まったく意識の外であったのに、急に背後から声を掛けられ驚く宗平を見る孝明はいつになく難い顔で、宗平は顔を引き締めた。
「――どうした」
気遣う声音に、孝明が周囲に目を向ける。
「ここは、家のようなものだと言ったな。人払いをすることは、出来るか」
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