11/13
前へ
/161ページ
次へ
「おれは、今から長親様の元へ行く。必ず、汀を連れに戻る。俺でなく、他の者が来るかもしれないが、その時はこれを確認するようにしてほしい」  懐から財布を取り出し、その中から鳥が描かれた銅版を抜くと宗平の懐に押し込んだ。 「普通の人として扱われ、これほど長く共に過ごして会話をしたのは、久しぶりだ」  安堵と望郷を纏った孝明の周囲に、風が巻き起こる。 「っ、あ――」  突然の小さな竜巻に煽られ巻き上がった砂をよけるために腕を上げ目を庇った瞬間、風音は止み砂が舞いあがった形跡も残さず、風は孝明の姿と共に消え失せた。 「――おいおい、話が急すぎやしねぇか。確認と納得をする間ぐれぇ、与えてくれよ」  ぼやく宗平は懐に押し込まれた銅版を取り出し、目を落とした。そこには、一つ目の梟(ふくろう)の姿が彫られていた。  宗平の前から消えた孝明は、雨戸を締め切り光を遮った板間の部屋の中にうずくまるようにして、座っていた。  うすく光の切れ目が闇の中に生まれ、襖が開かれる。白い日の光の中に浮かんだのは、長親だった。逆光で見えぬ顔には、おそらく玩具を手に入れた子どものような笑みを浮かべているのだろうと、顔も上げずに孝明は思う。     
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加