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 池にヒョウタンを突っ込んで、水をくんでいる汀に声をかける。自分を妖怪だと言った孝明の語る全てを信用したわけでは無いが、苔に花を咲かせたことといい、忽然と風に巻かれて姿を消したことといい、疑いきることも出来ない。大名の傍に妖(あやかし)が居るという話が本当で、その妖(あやかし)の正体が孝明の説明のとおりであれば、大名の帰還とともに汀を連れて行くことは自然な流れだと思えた。  汀が連れて行かれれば、自分はどうするのか。もう孝明と会うことは無いのだろうか。そう悩みながら、宗平は少々緊張気味に客が現れるのを鯉を眺める汀の横に立って待った。  そこに現れたのは長親で、孝明と同様の働きをしている見知らぬものが来ると思っていた宗平は、目を丸くした。 「なかなか、いい暮らしをしているのだな」 「なんで、アンタが来るんだよ」 「孝明が戻ってくると思ったか」 「そうじゃねぇけど、アンタは孝明の上官なんだろう? 孝明とおなじくらいの身分の奴が来ると、思ったんだよ」  ふむ、と宗平の言葉を受け止めた長親が手を伸ばし、汀を招く。汀はヒョウタンを腰につけて、長親の傍へ駆け寄り周囲を見回した。 「孝明は、いないのか」 「孝明は、まだ仕事中だ。その仕事が終わる前に、汀と宗平を迎えに来た」 「おれも――?」  いぶかる宗平に、長親が頷く。 「孝明が、自らの身分を明かしたらしいな。あれは、人では無い。物の怪だ」 「孝明の話じゃあ、突然に天帝の力を受け継いで生まれた人の子だったはずだがな」  ふっ、と息を吹き出した長親が、高らかな声を上げて笑いだす。     
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