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 星の灯りが消え始めているのに、太陽の光はまだ見ることのできない漆黒の刻。半信半疑で待っていた宗平の耳に鳥の羽音が届いた。見上げてみるが、暗すぎて鳥の姿など見えるはずも無く、またこんな暗闇で鳥が飛ぶはずも無いかと幻聴として流そうとした宗平はふと、孝明から預かった銅版に描かれていたのが梟(ふくろう)だったことを思い出す。再び首をめぐらせかけて、橋に人影があるのに気が付いた。羽音がして首をめぐらす前までは、確かになかった気配がそこにある。多少の緊張を交え腰の得物を意識しながら、人影が近づいてくるのを待つ宗平は、それが誰であるのかを認識した途端に安堵と共に破顔をし、手を大きく振り上げた。 「孝明!」  その声に、歩む速度を変えずに近づいてきた孝明が呆れたように、子どもが友を迎えるような顔をしている宗平を見る。 「何故、ここにいる」 「長親が、ここで待ってろって言ったんだよ。聞いていないのか」  深く長くため息をついた孝明が、信じられないというふうに首を振った。 「おれが、怖くは無いのか」  きょとんとする宗平に、苔に花を咲かせて目の前で姿を瞬時に消しただろうと言えば、そんなことかと返される。 「そりゃあ、驚きはしたけどよ。だからって孝明は孝明だろう。だったら、気にする必要なんざ、ねぇよ」  歯を見せて笑う宗平の肩越しに、孝明は滲むように上る朝日のかけらを見止めて、泣き笑いのように眉を下げ口の端を上げた。 「変わった男だな」 「いい男だろう」 「自分でいうな」 「そう、思ってんだろ」  ふ、と鼻先で笑いあい、眠る汀に目を向ける。 「なんの用意も必要はねぇって長親に言われたんだが、こっからどうするんだ? おれのことは、大名様が剣の腕を見込んで雇うことにしたって内容の文を家に届けると聞いてるんだが」 「おれは、橋のたもとで面白いことがあるからすぐさま行けと、長親様に言われてきた」 「面白いことが、あったか」     
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