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 そのうち自らの想像で彼らを憐れと思った村人は、子どもたちが遊びに行くのに子守代だと言って野菜を持たせて行かせるようになった。子どもたちが嬉しげに彼らのことを語り、ひとり、またひとりと遊びに出かける子どもが増えれば、母親は彼らの事を強く意識し始め、様子を見に行きはじめることとなった。そうして母親が彼らの腰の低さと人当たりの良さを家で褒めれば、その夫も彼らの様子を見に現れるようになり、挨拶を交わすようになり、山に入って獲ってきたと彼らが差し出す獣肉や果実、山菜などと、里で作った野菜や藁などを交換するようになった。  村人たちが、一人で山に入り狩りを行っているであろう宗平という男に、毎日の狩りは大変だろうと語りかければ、彼は何に煩わされることも無く、気ままな生活が出来ているので不満は無いと歯を見せて返答をした。それでますます、彼らの事を公家とその護衛の者だと勝手に認識を定めてしまった村人は、自分たちの所に租税の取り立ての検分に来る役人の横柄さと比べ、彼らの親しげな態度に益々の同情を寄せて親切にするようになった。それらを控えめに受けながら、孝明と名乗った公家らしき若者は子どもたちに草笛や歌を教え、汀というらしい子どもは自分も平民の子どものように、泥だらけになりながら臆することなく野山を駆け巡り、川遊びに興じて村の子ども社会に溶け込んでいった。  すっかり打ち解け仲間のように村の者たちが彼らを受け止め――けれど、言うに言われぬ事情があるのだろうと、好奇心を抑え込み素性を聞くことはせず――気さくに村の事も手伝う宗平に、村の一人が声をかけた。 「もうすぐ、検分の為に役人がやってくるんだが、その日は息を潜めていないふりをしていなされませ。もし見つかれば、どんな仕打ちをうけるかわかりませんしな」     
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