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 荒寺の庭は野山のように草が生え放題のままで、親切心から草刈りをしてやろうと、世話焼きの老人が鎌を持ってやってきたが、男は眉をハの字にして両手を振り、泣きだす前の子どものように首をぶんぶんと大きく振った。老人が不便じゃないかと問えば、男は大きく頷き、身振り手振りでこのままがいいと示した。そうかと老人が残念そうにすれば、申し訳なさそうに男が頭を下げる。その実直な姿に、老人は顔をほころばせ、男は安堵に頬を緩めた。  男は、年齢がわからなかった。汚れた顔と乱れた髪に隠されて、年寄りのようにも若者のようにも見えた。体の動きから、若者であろうと村人たちは判断していたが、矍鑠(かくしゃく)とした村の老人は、自分もそれくらいの動きはできると言った。なるほどそうだと思った村人は、ますます彼の年齢が分からなくなった。しっかりと顔を見ようとしても、男は顔を近づければ同じだけ離れてしまう。目元にある笑いじわが、さらに年齢を分からなくさせていた。――男の年齢など、どうでもいいではないかと村のひとりが言い、それもそうだとその場では納得をするのだが、人はわからぬものを知りたがる癖がある。すぐさま、男はどのくらいの年なのだろうかと、答えの無い問題を再び口に上らせることになった。     
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