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 にこりとした宿の者に、朝餉と出立の時刻はどうするのかと問われ、部屋に三人分を運んでくれと頼み、出立は食後に腹が落ち着いてからにすると告げた。そうして少しの銭を握らせると、眠る汀を確認し、孝明は宗平の居る井戸端へと向かった。  もろ肌脱ぎとなり、手ぬぐいで乱暴に体を拭いている宗平の体躯は、みっしりとした無駄の無い筋肉に包まれた見事なもので、孝明は感心したような息を漏らした。孝明が物陰から眺めているのを見止めた宗平が、歯を見せて笑う。 「なんだ。そんなところから、男の肌を盗み見て楽しいか」 「そういう趣味に、見えるか」 「人は、見かけだけでは判断が難しいんでな」  ゆったりと近づいてくる孝明に、からかう目を向けた宗平は手ぬぐいを肩にかけて袖を通した。 「昨日は、つまらぬことを聞かせてしまったな」 「いや、なかなかに興味深い話だった。――急がないのなら、朝餉をごちそうさせてはくれないか。汀も、喜ぶ」 「そうか――断る理由は、某にはかけらもござらぬなぁ」  袖に腕を通した宗平が、人懐こい笑みを孝明に見せる。連れだって二人が部屋に戻るころには、汀も目を覚まして身を起し、ぼんやりとしていた。 「汀、顔を洗ってこい」  こく、と首を縦に動かした汀が目を擦りながら立ち上がり、ふらふらと廊下に出ていく。 「大丈夫なのか」 「大丈夫だ」     
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