13人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
「馬鹿を言え。某とて武人の端くれ。良い馬を見分ける目は持っているつもりだ。そういうつもりで、言ったんだ」
「わかっているさ、宗平。汀の村で、馬を一頭欲しいと言ったら、焔を用意されたんだ。何処からどうやって手に入れたのかは知らないが、苦労をしただろうな」
「それだけの期待を、寄せられていると言うことだな。孝明は」
からかう声の宗平に、大仰にため息をついて見せた孝明が、うそぶいてみせる。
「これほどの重圧、耐えられそうも無い。いっそ、知らぬふりをして別の国へと逃れてしまおうかとさえ、思うぞ」
ちら、と目を見合わせて似たような悪童の笑みを浮かべあう二人に、汀があくびをしながら「おやすみなさい」と言ってくる。それに答え、いつの間にか汀を挟んで眠ることが常となった二人も身を横たえ、宵闇よりもまだ暗く、森の息吹のように暖かな暗闇へと意識を沈めていった。
街道の途中、ぽつんと見えた農村らしい姿に、あそこに立ち寄ろうかと孝明が声をかけると、宗平は苦い顔をした。
「なんだ――寄りたくない理由でもあるのか」
「いや――」
「じゃあ、どうしてそういう顔をする」
ううむ、と言い淀み鼻の頭を掻いた宗平は、あの村は無人だぞと言った。
最初のコメントを投稿しよう!