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「行っても、誰も居ない。おそらく、村中で示し合わせて、どこかに逃げてしまったんだろうな。襲われたような形跡も無かったから、な」
「立ち寄ったことが、あるのか」
「三月ほど前だ。その時は、逃げたすぐあとだったのか村も田畑もきれいだったが、人の気配が少しも無くてな。牛なども連れて出たんだろう。家畜小屋には鶏が数羽いたのみで、繋がれていたらしい牛や馬の姿は、影も形も見えなかった」
ふうむ、と宗平の言葉を受け止めた孝明は焔の背に居る汀を見上げた。
「汀――久しぶりに、屋根のある所で休みたくはないか」
「おれはどっちでもいいが、焔をきちんと休ませてやりたいな」
ぽんぽんと馬首を叩く汀は、焔は野営の折には寝ずの番をしているものと、どうしてだか思い込んでいるらしい。野営の後には必ず、一番疲れているのは焔なのに、と一言焔に詫びを入れてから孝明に抱き上げられ、乗せられている。
「人のいない村には、物の怪がいるかもしれないぞ」
声音を震わせ恐ろしげな音にして、にたりと笑う宗平に汀がぷくりと頬を膨らませる。
「おれは、物の怪など怖く無い」
「本当にそうか――? 汀は、物の怪に会ったことがあるのか」
「無い……けど、でも、そのようなもの、恐ろしくなんか無いぞ」
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