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 男と子どもは、手をつないだままのんびりと物見遊山に出かけるような足取りで、街道を進んでいた。女物の衣をかぶる男を不思議そうに子どもが見上げるが、男は前を見て進むばかりで、子どもの視線に応える様子を見せない。なので、子どもは無言でただ男の歩みに合わせて進み続けた。  男が足を止めたのは、街道の脇に小川が見えた時だった。日はちょうど空の真ん中あたりに差して、昼時を示している。馬を連れて河原に下りれば、馬に水を飲むよう促して、かぶっていた着物を手ごろな石の上に置き、その上に子どもを抱き上げ座らせた。少し尻をもぞもぞとさせ、安定する場所を探った子どもが顔を上げれば、男が子どもの頭の上に手を乗せる。 「飯に、しようか」  空腹と疲れを感じていた子どもは、花が咲くように顔を輝かせた。 「うん!」  力強く頷き、わくわくとした気配を纏う子どもの頭を二度ほど撫でるように叩くと、男は馬の背に括り付けられている荷から竹筒と握り飯を取り出し、子どもの横に腰かけた。 「では、いただこう」 「いただきます」  並んで両手を合わせ、握り飯に一礼をしてから食べ始める。     
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