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 大名が到着してから五日目。  明日には出立するという話を、宗平は朝餉を運んできたものから聞いた。汀は孝明が姿を消してからも自主練を怠ることなく、ヒョウタンを抱えては庭先で「う~ん、う~ん」と唸っている。ヒョウタンから水が顔を出して吹き出すまでは行くが、その水をきれいに戻すことが課題らしく、宗平も汀が眉間にしわを寄せて集中をしているのに、拳を握り息をつめて見守っては、ヒョウタンの縁に水があふれて落ちてしまうと、汀と共に落胆の息を吐きだしたり、休憩を擦る汀と遊んだり、刀を手に取り鍛錬を行ったりして過ごしていた。  宗平が帰ってきたことは、本宅には告げないように言ってあるからか、彼を訪ねてくる者は居なかった。――昼餉を終えるまでは。 「客――?」 「身なりの良い、まるで役者のような男が訪ねてきております」  名前を聞いても名乗らない男で、宗平が大名様へ舞を献上するために送った孝明の使いだと言っていると聞き、茶と茶菓子を用意して通すようにと伝えた。 「汀の迎えが、来たのかもしんねぇな」     
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