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「兄ちゃんは何だか元の兄ちゃんに戻った気がする」
と微笑みながら彼は言っていた。
東京駅へと足を進めて、もう帰ろうか、家に着くのはいつになるかと考えていたところだ。
距離も幅も大きな横断歩道の向こう岸に、彼女を見つけたのだった。
横断歩道の信号が青になった。
景色がスローモーションで変化する。
あの人が、向かい側からこちらに歩いてくる。
あの人のようで、あの人でないかもしれない。
夏子のようで、夏子でないかもしれない。
だけど、お互いの お互いの距離が近づくほど、俺には夏子にしか見えなかった。
これは幻なのか、いや、違うらしい。
「野村浩介さん、ですよね?」
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