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高校生の俺は、自分でいうのも何だが、成績は良かった。 親や高校の先生に大学進学を勧められ、漠然と憧れていた東京の大学への進学を希望した。 晴れて都会での1人暮らし。 心躍りながら新品のスーツに身を包み、向かった入学式会場に彼女はいた。 首席で入学した秀才で、容姿端麗。それから大企業のご令嬢。 寺田夏子。 すべての男子学生の憧れだった。マドンナだった。 夏子とは今思うと偶然が多かった気がする。 同じ学年、同じ学部。同じ授業を履修した。 絵を書くのが好きだった俺は、美術系のサークルを選んだが、その新歓で一緒にいたのも夏子だった。 男子たちが皆鼻の下を伸ばして彼女を見ていたし、俺も例外ではない。 夏子に恋するまで時間はかからなかった。 密かに、密かに片想いをしているはずだった… サークルに入ると、古い校舎の角部屋で、それぞれの作品を書いたり、同期みんなで飲みに行ったりして、自然と夏子と言葉を交わす機会が増え、親しくなった。 夏子はたまに俺に向かってドキッとするようなことを言う。 「野村くんはやさしいよね」 「野村くんの雰囲気、素敵だと思う」 「浩介くん、デートしない?」 それが冗談だと思って受け流していたある時、夏子は俺に言ってきた。 「浩介くん、好き」 「浩介くんの背中、抱きつきたくなる」 「浩介くんは、私のこと好きでいてくれたりする…?」 付き合ってほしい、そう言われた時は、現実か夢か分からなくなった。 「俺も好きだよ。でも俺でいいの…?」 「浩介くんがいいの。私の好きな人だから…」 「こんな俺のどこが?」 「全部!」 「えっ……」 「んー、たとえば優しいところ。思いやりがあって、ガツガツしてないところ。気がついてる?他の学生とは雰囲気が違って、大人っぽいところ」 あの時夏子がニコッと笑った顔が忘れられない。 2人で過ごした日々は、平穏だったけど、すごく幸せだった。 恋がいかに人生を輝かせるか、愛がいかに心を落ち着かせるか、初めて知った。 この時間がずっと、ずっと続くと思っていた。 あの頃の俺は若かったんだ。
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