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「野村浩介さん、ですよね?」 目の前に立っていた人は、やはり夏子だった。 スーツを着こなし、髪を一つに結んでいて、大学生の頃とは雰囲気は違っていたが。 この時、俺はどんな顔をしていたんだろうか。 強張っていたか、不安そうだったか、驚いていたか。 俺の動悸とは裏腹に、夏子の表情は落ち着いていた。 「浩介くん、でしょ…?」 「うん、そうだよ」 「やっぱり!」 信号が赤に変わりそうになった。 夏子は元にいた場所へ俺と一緒に歩いていく。 「浩介くん、久しぶりだね」 夏子の声は嬉しそうだった。 俺は夏子にとってひどい人間であるはずなのに。どうしてそんなに…… 夏子に聞かれ、この後何も予定がないというと、彼女はお洒落なカフェへと俺を連れて行った。 「一度来てみたかったのよね。ちょうど近くにあって、よかった。  ここのコーヒー、美味しいんですって。浩介くんも、同じのでいい?」 「あ、うん……」 元恋人との再会はこんなに軽いものなのか。 テレビドラマとかだともっと重かったような気がするが…… 「あのね」 注文を終えると、彼女は俺の目を真っ直ぐ見た。 「私、また浩介くんに会えて嬉しい。強引にここに連れてきちゃったこと、ごめん」 「あ、いや、大丈夫だから」 「彼女とかいて、私に会いたくなかったりしたなら、ごめん」 「彼女もいないし、そんなんじゃないから、大丈夫だから」 「うん…ごめん…でも、嬉しかったんだ」 「うん」 彼女はその後、数秒黙った。 俺もこんな時何を言えばいいのか分からない。 ただ、この沈黙も、あの時は心地よかったと振り返っている自分がいた。
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