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一幕
昔々の話である。江戸の城下町のとある長屋の一角で、小さな産声が上がったそうな。
本来なら子ができたとあれば、親は狂ったように喜び、子にそれは深い愛を注ぎ込むのが常というもの。しかし夫婦は、我が子を見ても欠けらも喜びはしなかった。それどころか、まるで塵屑でも見るかのような眼差しを向けた。
それは大方、子の容姿があまりに異形だったことにあったのだろう。
子の目は鳶のように鈍く鋭いもので、鼻は不自然に潰れていた。唇は茄子を思わせる紫で、肌は土壁の如くひび割れている有様。中でも目を引くのはその頭。瓢箪のようなぬらりとした腫れ物がでんと付いていたのである。
その悍ましき容貌を一言で表すなら、妖が相応しかろう。世にも奇妙な妖の子が、この世に生を受けた瞬間だった。
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