雨の日の訪問者

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雨の日の訪問者

 駅から徒歩十五分。三階建ての古びたアパートの角部屋のドアノブを捻ると、“彼”がいた。 「おかえり~」  “彼”はソファーに寝そべりながら、一昨日僕が買ったスナック菓子を開封してむしゃむしゃと頬張っていた。まるでこの部屋の住人であるかのような雰囲気を醸し出しているが、“彼”はルームメイトでも何でもない。 「……また来たのか」  “彼”は返事をする代わりに、僕にピースサインを向けてくる。“彼”の子供のようなわくわく顔に、僕はうんざりした。 「小春(こはる)だって、俺が来るのなんだかんだ楽しみにしてたんだろ~?」  このお調子者の自意識過剰な発言は無視する。ちなみに“小春”というのは、僕の名前だ。女みたいな名前だが、僕は同性愛者でもなければ、女装の趣味もない。いたって普通の、男子大学生だ。  そしてこの、僕の部屋に我が物顔で居座っているのは、朝倉(あさくら)という男だ。高校の同級生で、三年間クラスが同じだった唯一の生徒。こんな説明をすると、僕と朝倉はとても仲がいい友人関係と思う人間もいるかもしれないが、それは大きな間違いだ。 「今日は大学? お疲れー」 「……うん」 「バイトはあるの?」 「今日はない」 「お、じゃあ今日は二人で宅飲みオールし」 「しないから」  朝倉は、つれねーなぁ、と項垂れた。当然だ。勝手に部屋に侵入し、菓子を漁って、それに飽き足らず宅飲みまで始められたら、こっちはたまったものじゃない。僕は酒が苦手なのだ。あの独特の香りがどうしても受け入れられず、飲み会(強制参加)でもソフトドリンクを貫く。 「朝倉」 「ん?」 「そこ邪魔。どいて」 「えぇ~? このソファー居心地いッ!?」  朝倉の腹を蹴り上げると、彼は簡単に床に転がり落ちた。僕はようやく空いた自分のスペースに満足し、朝倉が食べかけていた菓子をつまんだ。足元から、来客にその扱いはひどいぜ、とかなんとかぶつくさ文句が聞こえてくるが、そもそもお前は客じゃない。
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