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「天気予報の時間です。今日は、午後から雨が降ります。皆さん、傘を忘れずにお持ち下さい」
BGMとして流している朝のニュース、その天気予報コーナーの声に、僕は教材を鞄に詰める手を止めた。
今日は、朝倉はやってくるだろうか。
分からない。彼はいつだって気まぐれだから。雨の日だからといって、彼が必ずやってくるとは限らない。
朝倉の死後、彼が初めて僕の前に現れた時、本気で腰が抜けるほど驚いた。彼はまるで、高校時代、朝、教室で顔を合わせるような飄々としたノリで、僕の部屋でくつろいでいたのだ。
彼が来ると、懐かしい話でいつも盛り上がった。当時流行った教師のモノマネ、文化祭での失敗談。彼と会えると、いつだって楽しかった。
それから僕は、雨の日になると、朝倉が現れるかどうかで、一喜一憂した。
今日、もし彼がやってきたら何を話そうか。亜由美が彼氏と別れたこと、僕の妹が、朝倉が通うはずだった大学へ進学が決まったこと。それとも――
未練タラ男である彼の告白を、聞いてやってもいいかもしれない。
そうしたら、僕は何と答えようか。
結果的に振ることにはなってしまうが、僕は、それでも彼に、こう言いたい。
“君のことが、好きだ”
冷蔵庫の中を確認した。缶ビールが二本入っている。
「よし」
傘を片手に、僕は家を出た。まだ空は綺麗に晴れている。
どうか、雨が降りますように。
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