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「亜由美は元気?」
下から、朝倉の声がした。
「うん。珍しく今日は講義来てたよ。なんかまた新しい彼氏ができたとかって、騒いでたけど」
「ふ~ん」
床から起き上がった朝倉は、無表情で真っ暗なテレビの画面を見つめていた。亜由美というのは朝倉の高校時代の彼女で、今は僕と同じ大学に通っている。こうしてたびたび僕の部屋にやってくる朝倉は高確率で亜由美について聞いてくる。だから僕は朝倉のことを、心の中で未練タラ男と呼んでいる(前に一度、この名前で呼んだら死ぬほどキレられたので、本人の前で言うのはご法度だ)。
「小春は?」
「え?」
「小春はどうなの? 最近」
どうなの? という朝倉の問いかけは、今までの流れから察するに、僕の恋愛事情についてだろう。朝倉は僕の顔をじっと見ている。
「……別に何もないよ」
「ホントかよ!? お前いっつもそう答えるけどよ~。彼女とまではいかなくとも、好きな女子とかいないワケ?」
亜由美事情に並び、僕の直近の恋愛状況についても毎回毎回朝倉はこうして突っ込んでくる。こういう話を他にできる相手が他にいないのだろう。恋愛にも、話し相手にも飢えている朝倉にとって、僕は格好の的に違いない。この厄介者の相手をするのも、残念ながら僕の役目だ。
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