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「なぁ、最近の大学生って何が流行ってんの?」
「知らない」
「ぷぷっ! だよなぁ。小春が知るわきゃねーよな」
朝倉は静かに怒りを秘めた僕の顔を見ると、無遠慮にげらげらと笑い始めた。
しかし実際は朝倉の言う通りで、僕は、今時の若者事情にひどく疎い。話題の芸能人も知らなければ、流行りのファッションにも全く興味がない。そんなんじゃ、友達との会話についていけないんじゃないのか? と突っ込みたくなっただろうか。問題はない。なにせ、僕には友達という友達が存在しない。
そんな、他人から見たらつまらない僕にとって、朝倉という男は異質な存在だった。
朝倉はいわゆる“クラスの人気者”というポジションの生徒で、男女問わず友人が多かった。彼には、パーソナルスペースという概念がないらしく、相手がどんな人間であろうと、ぐいぐいと自分のペースに巻き込んで、気付いた時には世間話で盛り上がっている。
この彼の特異性が、積極的で楽しい、と感じる者もいれば、馴れ馴れしい、強引で嫌だ、と思う人間もいる。ちなみに僕は後者だった。
しかしこれがまた彼のすごいところで、相手がどんなに迷惑そうな顔をしていようが、嫌がっていようが、その強引すぎる積極性で再び突き進んでいく。鉄のハートの持ち主だった。
朝倉と出会った当初は、“なんだこの、うざい絡みをしてくる強引な男は”なんて内心苛ついていたが、彼のあまりの強引性とその実直さに、僕の方が音を上げてしまった。そこからは早かった。もう文字通りあっという間に仲が深まった。しかし彼にとって、人類は兄弟。だから、冒頭でも言った通り、僕と朝倉は仲がいい友人関係というのは間違いで、彼にとって僕は、ただの他人(=友人)だ。
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