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「なんだこれ……超不味い!! つーか苦すぎだろぉ!!」
僕の予想通り、朝倉はビールの不味さに悶えていた。酒が得意でない僕は、梅酒ソーダをちびちびと啜る。
「だから言ったのに……」
「うっせぇ! だってよぉ、よくCMとかでサラリーマンのおっさんがぷは~ってゴクゴク飲んでるじゃん? あれをさ~やってみたかったんだよぉ」
朝倉のそのささやかな夢はどうにも叶いそうにない。缶ビール半分で、彼の顔は真っ赤に染まっている。
「あんまり飲みすぎないでよ」
「ほえ? なあにがぁ?」
……こいつはもう駄目だ。
「なぁ~、亜由美元気かよぉ~」
「それ、さっきも聞いたから」
朝倉は缶ビール片手に、へへ、と無邪気な笑顔を見せた。
「だあってさ、俺のことすげー心配して色々相談乗ってくれてたからぁ」
「相談? 朝倉ってばEDで悩んでたの?」
「ばっか!! ちげーよ!!」
僕は笑った。普段冗談なんぞ一切言わない僕だが、今夜だけは酒の力を借りて少しばかり気分がいい。
「亜由美はさぁ~優しいんだよあいつ。見た目チャラいけど、マジいいやつだからさ~幸せになってほしいんだ」
「そんなに大事なら別れなきゃよかったのに」
「うっせ。つーかそもそも亜由美とは付き合ってねぇから」
「え?」
僕の記憶によれば、朝倉と亜由美は、クラス公認のラブラブカップルだったはずだ。
「俺の悩み相談してもらううちに……勝手に付き合ってるって噂が広まって……まぁ、いちいち説明するのもメンドーになったから、じゃあ付き合ってるって設定にしちゃおーぜって話になったんだよーだ」
「ふぅん」
なるほど。そういう経緯だったのか。
「お前はさぁ……どーなのよ?」
「え?」
「だーかーらぁ! 好きなお、ん、な! 教えろって~」
本日二度目のこのくだり。僕はぐいっと梅酒ソーダを喉に流した。
「僕はいーなーいーって何度も言ってるだろ~」
まずい。僕まで呂律が回らなくなってきた。
「出た出た。この大嘘つきが~。小春、お前ホントに健全な男子コーコーセーかよっ!」
「うるさい。今はいいの今は~」
高校生じゃなく大学生だ、という突っ込みをする余裕すら、酔いのせいで奪われてしまう。
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