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そんな下らない言い争いをしていた突如、部屋の電気が一瞬にして全て消えた。
「え!? 何だよいきなり~」
真っ暗になった部屋で騒ぎ出す朝倉。僕は梅酒ソーダの缶を置いて、立ち上がった。おっとまずい。ふらふらする。
壁際まで行くと、窓の外を観察した。普段は付いているはずの外灯の明かりも全て消えていた。そういえば、今晩は雷予報だった。
「……停電みたい。まぁ、しばらく待てば戻るよ」
「そっか……ならよかった。あ、小春。そこ、荷物あるから気をつけ……」
朝倉が言い終わるや否や、僕は床に置いてある荷物に足を引っ掛けた。危うく床に全身強打するところを、座っていた朝倉が受け止めてくれたが、結局勢いに耐えられず、僕が覆い被さる形で、二人で床に倒れ込んだ。
「ってぇ……」
「悪い、朝倉。どこかぶつけて……」
それはほんの一瞬だった。暗闇の中、至近距離で目と目が合った。そのときの朝倉の目は、とても奇妙だった。こんな場面で現れるはずのないもの。そう、それは内に性の欲望を秘めた、まるで飢えた雄の瞳だった。
「……っ」
僕は何と言ったらいいのか、分からなくなった。真っ暗な部屋で二人きり。朝倉の、僕を抱き締める腕の力がほんの僅かに強くなった気がした。僕と朝倉の身体が密接に触れ合う。このバクバクといううるさい心臓の音は、僕のものか、朝倉のものか。動揺なのか、緊張なのか。
「こはる……俺」
朝倉が、何か言いかけた。しかし僕は彼の言葉を最後まで聞けなかった。久しぶりの酒と、酔いと、動揺と、熱が急激に襲い掛かり、僕はそのまま気を失ってしまった。
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