雨の日の訪問者

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***  交流といった交流のない亜由美から呼び出しを受けたのは、朝倉がうちに来た、翌々日のことだった。 「これ、見てくれない?」  講内のカフェの洒落た丸テーブルを挟んで、亜由美から渡されたのは、彼女のスマートフォンだった。 「え?」 「今、画面に映ってるの、ソレ、朝倉とのメッセなの」  僕は恐る恐る画面を覗き込んだ。彼女の言う通り、そこには亜由美と朝倉のチャットメッセージがあった。表情豊かな熊がでかでかと映っていると思えば、急に文字のみの真面目なやりとりを繰り広げている。 「ま、それ読んでもらえれば分かると思うけど……」  あとは亜由美が説明してくれた。  朝倉は、自分が同性愛者だということにひどく悩んでいた。彼と特に仲の良かった亜由美は、彼が何かに悩んでいることをすぐさま察し、彼を問い質した。朝倉は最初こそ戸惑ったらしいが、親身になって話を聞いてくれる亜由美に、自分の事情を吐露するようになった。当時、朝倉は亜由美以外に自分のことを話せる相手はいなかった。彼は家族にさえも自分の性について打ち明けられていなかった。
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