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そしてある日。
「朝倉が、東小春……あんたのことが好きだって、言ってきたのよ。あたしに」
僕は瞬時に、あの夜朝倉が見せた、猛々しい雄の光が宿った瞳を思い出した。あれは、勘違いではなかったということか。
僕が悶々としていると、亜由美はわざとらしくため息をついた。
「あたし、もうやんなっちゃったのよ」
「え?」
「だって、あたしがこんなつまんない男に負けたんだって思うと、超悔しくて」
亜由美は茶色くカールされた自分の髪を、小指に引っ掛けて遊んでいる。
「ごめん……。つまらない男で」
亜由美の僕に対する評価は悪意たっぷりだったが、それは紛れもない事実だった。
「まぁ、それはいいの」
亜由美は軽く笑い飛ばすと、また真面目な顔に戻った。
「あたしは告白しろ、とは言わなかった。同性に告白、なんて誰でもビビるからね……。でも、あたし、あいつに口酸っぱく言ったのよ。東小春は……オーケーするかどうかは別として……きっと引かずに受け入れてくれるわよって」
僕は素直に驚いた。酔った朝倉は、亜由美のことを優しくていいやつだ、とこぼしていた。彼の言葉を正直(申し訳ないが)疑っていた。しかしなるほど。亜由美は人を見る目が優しいのだ。
「もう朝倉は死んじゃったからさ、でもあいつのことだから、告白しとけばよかったって、たぶん後悔してる。だから一応、あいつの代わりに、ね」
亜由美は残っていたカフェラテを一気に飲むと、すっくと立ち上がった。
「話したいことはそれだけ、じゃね」
亜由美はショッキングピンクのバックを肘にかけ、出口へと颯爽と歩き出す。
「は、林さん!」
僕は亜由美を呼び止めた。僕にしては稀なほど大きな声で。
亜由美は立ち止まり、じっとこちらを見据えている。
「……ありがとう。教えてくれて」
亜由美は何も言わず、カフェを後にした。
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