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「アナウンスのあとは、パスを着けてから部屋を出ます。これを着けないと部屋のロックがかかったままでドアも開きませんから」
「手首とか足首に着けてる、その白いリングのことでしょ?」
ユウはそう言うと、わたしの四肢に装着されているパスを指さします。わたしが腕をあげると、動きに合わせて手首のところで揺れました。
パスはランプが1箇所あるだけで、他には装飾はないシンプルなデザインです。
ユウがじっと凝視しても、いつもと同じく無機質なグリーンのランプが点滅を繰り返すだけです。
ユウは何かを思案しているようで話を中断しました。
それに倣い話すのをやめて静かに待っていると、わたしの様子にようやく気付いたユウは視線で話の続きを促し、わたしは話を続けました。
「その後、食堂でご飯を食べます」
食堂での席は決まっているため、迷わず自分の場所に向かいすでにテーブル上に用意されているご飯を食べます。
わたしのいるテーブルには、両隣に9番と15番、前の席に21番、13番、24番の6人が一緒に食事します。
他の子どもも同様に、決められたテーブルでご飯を食べますが、先生だけはひとり食堂の中心に位置する椅子に腰掛けています。
食事もせず、ただ、静かにわたしたちを見つめています。思い出す限り、先生が食事している姿をわたしは見たことがありません。
「ご飯にはいつも君が隠れて僕に持ってきてくれるビスケット以外何が出されているの?」
それといつもありがとう、と付け加えてユウは言います。頷いてからわたしは訊かれたことに答えます。
「スープとパン、それに薬です」
「その薬っていうのは一体何なんだろう…?常に薬が出るなんて可笑しくないか?」
「先生は、幸せな場所に行くために必要なことだと言っていました。ユウはここに来るまで、ご飯に薬は出なかったのですか?」
「そうだよ。君がいつも食べているものとはきっと違うから…理解し辛いと思うけれどね」
「どのようなものがあるのか想像できません…本にも食事のことは書かれていませんでしたし…」
「まぁ、君が僕に分けてくれているビスケットは、僕が今まで食べてきたものと同じかな」
「あれは先生が特別に与えてくれるものなんです。わたしが知っている中で一番美味しいものです」
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