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福岡 pm12:30
太陽の光が、厳しい夏になった。
そんな暑苦しい職員室に、1人 小花を撒き散らし爽やかな風を振りまく男がいる。
その男の名は……言わなくても分かると思うが、一応言っておこう。
男の名は安斎行人である。
職場では無表情でいることが大半であったが、最近では微笑むことが増えて話しやすくなったと評判だ。
「安斎先生、最近なんか良いことがあったんですか?」
そう聞いたのは、久しぶりの登場、東先生である。
「いいえ、特には…」
ポーカーフェイスを決め込んで、彼はパソコンに向かう。
「ちょっとーいいことあったんでしょ?教えて下さいよー!!俺と先生との仲じゃないですかー!」
しかし、東先生も諦めない。彼の背後から肩を掴んで左右に揺れ「ねぇ、ねぇ!」と執念で迫る。
「 ……… 」
(アキと寝たなんて…この人には、死んでも言えない!)
行人はカタカタとパソコンに向かいながら、頭を悩ませる。
「実は、宝くじが当たりました」
(面倒だ、適当に放り込んでおけ…)
「えぇ!マジですか?いくら、いくら?」
「えぇーと、10万…」
「オォースゲー!なんか奢って下さいよ~!」
「分かりました、じゃあ今度…」
早く話を終わらせたくて、椅子から立ち上がり職員室から出たが、東先生も付いてきた。
「先生~何食べに行きます?」
彼は全く話を終わらせる様子はない。
(くそ、困った…)
行人がいる学校は職員室を出ると、エントランスにつながり、玄関となる。
「あぁ…、もう、先生が食べたいものでいいですよ」と適当に言葉を返していると、
「……!!」
行人は玄関先から発せられる 空気の振動にビクつき、振り向いた。
東先生も、「何事?」と振り返る。
振り返った先には、真夏に似合わない黒いスーツに、サングラスをかけた角刈りの大男が立っており、校内に入ってきた。
「あゎゎ…」と東先生は若干腰を抜かしながら行人の背中に隠れた。
東先生の恐怖をよそに、その男は行人に近づいて来る。
「安斎先生、やばいですよ、早く逃げましょう!」
東先生はコソコソと後ろから行人に話しかける。
しかし行人の声は明るかった。
「あ、東先生、大丈夫です。あの人 俺の父親です」
「…父親? と、父さんーッ!?」
東先生はドスンと尻餅をつくと、本当に腰を抜かした。
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