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ランチが運ばれて来て、やっと恭介さんは上着を脱いだ。
「恭介さん、俺と世間話するために わざわざ中央からお越し下さった訳じゃないでしょ?」
茶化した言い方をすると、恭介さんは、咳払いをした。
「 あぁ、森から お前が研究室に帰って来ないことは聞いた。 お前の今の状況を知っているから、そう答えるとは予想していたが… 」
「 その話か 」
俺は、敢えて怪訝な空気を発した。
自分の気持ちが揺らぎそうな気がして、その話はあまり聞きたくなかった。
(だから、アキを抱いたのに、彼の側に一生離れないと決意して。)
それを察しながらも、目の前の人はゆっくりと俺に語り出す。
「 そう、苛立つな
お前が今の職業で、頑張っていることも、大切な存在があることも、私は全部理解している
理解しているからな、来るのを迷った
大いに迷いながら、出した答えは “お前に後悔して欲しくない” という事だった
……だから、嫌だと思うが、少しでいい、私の話に耳を傾けてくれ 」
恭介さんの言葉はいつも冷静で、熱なんて感じたことはないのに、今日は不思議に言葉の矢が 俺の心に刺さっていく様だった。
「 分かった、聞くよ… 」
俺は観念したようにこうべを垂れて耳を傾けた。
「 すまんな 」
そう言うと、恭介さんの発する空気が軽くなった気がした。
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